雨のせいで分からない。
だけど、山瀨さんはまるで泣いているみたいだった。


「山瀨さ……」

「……なんて。すみません!
早く彼の所に……川瀬 拓海さんの所に行ってあげてください。
彼と君の止まっていた時間を動かしてあげて」

「山瀨さん!」

「もう傷つかなくていいんだ! 傷つく必要も無かったんだ。
だから……」


私の言葉を聞いてくれない。

違う。
そんな余裕もないみたいに彼は口を開き続ける。


「幸せに……なって……」


小さな言葉と同時に温もりは無くなっていく。

動けない。
体が動かない。

山瀨さんに言われた言葉が胸に刺さって、少しも言うことを聞いてくれなかった。

漸く体が動くようになった時には山瀨さんの姿は何処にも無かった。