「今の話が本当なら……海咲にちゃんと伝えた方がいい。
アイツはずっと苦しんできた。
早とちりするどうしようも無い奴だが……それだけアンタのことが好きだったって事だろう」


いつもよりずっと低い大将の声。
そこから私のことを真剣に考えてくれている事が伝わってくる。


「……俺があの時……無理矢理にでもアイツに話しをしていれば……」

「後悔したって仕方が無いことだ! それに……海咲は頑固だからな。
その時に何を言ったって聞かなかっただろう。
アンタたちには時間が必要だったってことだ」

「……ありがとうございます」


中からは大将の明るい笑い声が聞こえてくる。
やっぱり、大将は優しい人だ。

面と向かってその優しさを伝えられない不器用な人だけど……。


『そんなんじゃあ……いつまで経ってもお前は変われない。
あの時の、……泣き虫な高校生の時のままだな』


大将に言われた言葉が頭をよぎる。
わざとあんな事を言って私の背中を押そうとしてくれた。

考えてみればいつだってそうだ。
大将は私の意見を尊重しながらも正しい方へと導こうとしてくれていた。


「……大将……」


雨に紛れてしまう声。
力ないものだったが、そこには一つの決意が含まれていた。