「離して!」

「離さない! 誤解は解けただろう!?
お願いだから拓海と……」

「どうせまた嘘なんでしょう?
私を騙そうと……」

「そんなことして俺に何のメリットがあるんだよ!!」


確かにメリットなんて無い。
学生時代だったら傍にいて反応を楽しむという発想にもなるかもしれないけれど。
この人とは滅多に、というか会うはずも無いと思っていたほどだ。
そんな人が私を騙すとは考えにくい。
それでも……。


「信じたくない……信じたら……私……あの時……先輩を……」


拓海先輩は何も悪くないのに、誤解して勝手に憎んで。
突然と別れを切り出したことになる。

本当に私を好きでいてくれたというのなら……
傷つけたのは……拓海先輩じゃ無くて……私……?


「アイツはずっと君の事を想っている。
高校を卒業しても、大学に入学しても、社会人になった今でも。
誰に言い寄られても無視して、君を探し続けていた」

「……」


そっと放される腕。
今なら逃げられるのにそんな気力さえ無かった。
呆然と立ち尽くしながら頭を抱える。