「それって……どういう……」

「山瀨さんには、私なんかよりずっと素敵な人がお似合いです。
こんな面倒くさい女にこれ以上付き合わないでください」


言葉を繰り出す度に瞳の奥が熱くなる。
震える拳を隠すように握りしめて唇を強く噛んだ。

顔を下げているから山瀨さんには見えていないだろう。
バレてはいけない。

彼は優しいからきっと気付いてしまうから。
私が嘘を言っていることに。


本当は傍にいて欲しい。
私を見ていて欲しい。

だけど、そんな我が儘を言える状態じゃ無い。
元彼にフラフラと気持ちを揺るがしているというのに、これ以上、山瀨さんを苦しめる訳にはいかない。
だから。


「……海咲」


突然と聞こえてきた大将の声。
驚きながらも視線を向ければ腕組みをした大将が階段の上にいた。


「な、なんですか……?」


思わず声が震える。


「海咲、その言葉は気軽に言うもんじゃねぇよ」


大将の低い声に目を見開くことしか出来ない。
なんで、大将が私の言おうとしていた言葉を……。
呆然と大将を見上げていればゆっくりと近づいてくる。