「……俺の出番はない様だな」

「大将?」

「あのお客さん、店にもお前にも、……あの部長さんにも害がない様に穏便に事をおさめた。
ぽーっとしてる様に見えるが……大した男だよ」


大将は軽く私の肩を叩くと豪快に笑って仕事へと戻って行った。
それと入れ替わる様に今度はチーフが私の元へとやってくる。


「大丈夫か? これ使えよ」

「あ、ありがとうございます」


チーフは私に絆創膏を渡すと、彼もまた山瀬さんに視線を向けた。


「……あの人、お前の事庇ってたな?惚れられたか?」


不敵な笑みを浮かべられる。
何を言っているのか。
呆れつつもチーフに言葉を返す。


「そんな訳ないじゃないですか。それに別に助けてくれたとは……」

「馬鹿だな……。助けるつもりじゃなかったら……上司と話してる最中に能天気に寿司が美味いとか大声で言わないだろう?」

「え……」

「あのお客さん、隣の上司の人と喋ってたんだよ。でもお前が罵倒されてると気付いた瞬間、あれだ」


チーフはまたもや不敵に笑うと大将同様に私の肩を叩いた。


「まあ、ガンバレヨ」

「が、頑張れって……」


戸惑う私を残してチーフは奥へと引っ込んで行ってしまう。
私は立ち尽くしたまま山瀬さんを見る事しか出来なかった。