「や、山瀬さん……」


久しぶりに口から出た名前。
それで漸く実感が湧いてきた。
山瀬さんが目の前にいるって。


「遅くなってすみません。でも全て終わらせてきましたから」


柔らかい笑顔が私を優しく包み込む。
その笑顔が見えた事が嬉しくて、何度も何度も頷いた。


「おう、山瀬! 気持ちは変わってないだろうな?」


大将がカウンターの中から山瀬さんに不敵な笑みを向ける。
それに応える様に山瀬さんは力強く頷く。


「はい。ココで働きたいという想いは変わっていません!
勿論、ミサキさんを好きだって気持ちも」


山瀬さんの視線が大将から私へと移った。


「ミサキさん俺……頑張りますから!
仕事も……君の事も……」


私は馬鹿だ……。
山瀬さんが1人で頑張っていたのに。

私の事を忘れたとか、会社に留まるんじゃないかとか。

そんな事を考えていた自分がつくづく嫌になる。

こんなにも真っ直ぐな人を疑うなんて……。