「あの山瀬って男の子、店に来ないねー? あんなに海咲ちゃん、海咲ちゃんって煩かったのに!」


そのひと言に気分が沈んでいくのが分かった。
思わず大将を睨めば、私の代わりに常連さんに説明をしていた。


「俺が出した条件を乗り越えてる最中だろうよ」

「どういう事?」

「山瀬がこの店で働きたいって言って来てな……。
入社試験として条件を出したんだ。会社の事に全てケリをつけるまでこの店の敷居を跨ぐ事も、海咲に会う事も許さないってな!」


豪快に笑う大将に、納得した様に頷く常連さん。
まさに大将がやりそうな事だと思ったのだろう。
暫く笑って居たが、怪しげな笑みを向けられる。


「愛されてるね~海咲ちゃん」

「そ、そんなんじゃあ……」

「照れる事ないじゃないかー」


愛されてるのかはともかく、2か月も会えないのは辛いモノだ。
山瀬さんだってもう私の事を忘れているかもしれない。
冷静に考えた結果、会社に留まる事に決めたかもしれない。

それはそれでいい事なのに……。

何故か胸が痛むんだ。