「それで、だ!」

「どれですか」


大将の無茶苦茶なフリに呆れた様にタメ息を吐けば華麗に無視をされる。
そして、山瀬さんと私の肩を更に力強く抱きしめて怪しげな笑みを浮かべた。


「じゃあ、ただ今より……入社試験を始める!」

「……え?」

「……へ?」


大将のいきなりの言葉に私も山瀬さんも素っ頓狂な声を上げていた。
そんな私たちを見ながら大将は豪快に笑い声を上げる。


「そんなに簡単に弟子になれるとは大間違いだ!」

「いや、さっきは喜んでたじゃないですか!」

「それはそれだ」


何を言っても大将には通用しない。

私は諦めて、山瀬さんを見た。
急な展開に戸惑っているだろうと思ったのが……。

どうやらそんな心配はいらなかったようだ。


「分かりました! 受けてたちます!」


真っ直ぐな瞳に炎が見える様な気がしたのは私の気のせいなんかではなかった。
やる気に満ち溢れた山瀬さんに大将も満足そうに笑顔を浮かべている。


「じゃあ内容を発表する……それは……」


大将の声が店へと静かに吸い込まれて行った。