それでも、僕を殺せると思って、泣いている君。
一瞬の隙もなく、君を見つめ続ける僕。
なんだか急に全てが馬鹿馬鹿しくなって、僕は笑う。
気が狂ったように大きな声で、腹を抱えて笑う。
だって、君は僕を愛していて、僕も君を、言葉で言えば愛しているのに。
こんなにも無駄な悲しみと、無駄な恐怖と、無駄な時間の中にいて。
ゲームはもう終わらせなくてはいけない。
君はもう、泣く必要などないのだから。
僕はもう、君から目をそらしてもいいのだから。
僕は、目を閉じた。
それでも、瞼の裏には君の赤が残る。
ああ、こんなにも君を忘れられないのに。
どうして君は、僕のことを何にも知らないんだろう。
君はどうしてそんなに赤いのだろう?
「愛のないセックスを、お前は気持ちいいのか?!」
君は大きな声で叫んだ。
驚いて僕は目を開ける。
「無駄なセックスは、寿命を縮めるだけだ!!」
気がつけば君は、僕の左胸にナイフを押し当てている。
君の顔は、ますます赤くなって、僕に滴る涙も、湯気が立つほど熱い。
「アタシを抱こうとするのは、もうやめろ!!」
君を、抱く……?
そんなことは考えたことがなかった。
僕はただ、君を見つめることだけがすべてだった。
ありきたりな言い方で言えば、それだけで幸せだった。
「それともアタシを愛してる??」
そうだね。
確かに、君の知っている言葉で言えば、そうなのかもしれない。
けれど、そんな言葉で、この気持ちを君に伝えることはできない。
「なんか言いなさいよ!!」
何を君に伝えればいいのだろう?
今、少しずつ込められる君の左手の力を止めるために。
僕は何を伝えればいいのだろう?
例えば愛してると言ったら、このナイフを止められる?
いいや。
きっと、無理だ。
君が僕を殺そうとする理由は、そんなところにないだろう?
僕が君を愛していることなんか、もう、とっくの昔に知ってるんだろう?
そんなことじゃあなくて、もっと、もっと確かなものが見たいんだろう?
もっと本当のものが、欲しいんだろう?
その為の言葉が、どうしても僕には見つけられないんだよ。
どうしても君に殺されることしかできないよ。