まるで、甘い恋の夕暮れのように、君は真っ赤い顔をして、僕の目の前に立った。
何か言おうとして、君はやめた。
言っても伝わらないと思ったのか、君がもともと言葉を知らないのかは、知らない。
けれど、君の顔を見れば、すぐにわかる。
僕を殺そうとしてるんだね。君は。
左手にナイフを持って。
右手で涙を拭いながら。
どうしたの?
どうして泣いてるの?
君は、僕を、殺せやしない。
知ってるんだよ。
だって、もうずいぶんと前から、君を見ていた。
愛しい、赤い君を。
だから、君のナイフが偽物だってことも知ってるんだ。
けれど、君は気づかない。
本物だと、思ってるんだね。
僕を殺せると思ってるんだね。君は。
馬鹿な、君。
何にも知らない、無知な、小さな、君。
無理だよ。
君は、僕を殺せやしない。
君に、僕を憎みきることなどできない。
知ってるんだよ。
僕を愛してるんだね?
どうしようもなく、僕を。
泣いても泣いても止まらない切なさを抱えて。
他の女を抱く僕を、どうしても想像してしまって。
絶望して、ナイフを持ち続けたんだね。
でも、間違ってるよ?
例えば、僕の心の中を、君に見せてあげることができれば。
君は、そのナイフを手放せるかもしれないけど。
例えば、僕が君を愛していると言えば。
君の涙は止まるのかもしれないけれど。
でも、どっちもかなわなくて。
僕の胸を切り裂いても、心臓を開けても、心はどうしても見えないし、愛してると口で言っても、そんなことじゃあ足りないくらい、君を愛しているから。
言葉は、まるで無意味で。
そんなことじゃあ、伝えることができなくて。
君に伝える術がなくて、困ってるんだよ。
少しずつ僕に近づいてくるナイフを、止めてあげる方法が見当たらなくて、困ってるんだよ。