こっち向いて、ダーリン。【改訂版】

太陽の下なのに、逢川の顔はどんどん暗くなっていく。


自分ちが異常だって知ったら当たり前か。いや、今まで気づかないってことはないだろ。ありえねぇ。

他人に言われて再自覚したのか?


自分の学校の近くのホテルで不倫して、家族に手を上げる父親。

娘が旦那に殴られても何もしない母親。それが普通のように振る舞っている家庭。


俺からすれば、ちゃんと両親がいるってことはそれなりに幸せなことに思える。

比べることはできねぇが、どんな形であろうと血の繋がった親がいるだけで、親がいないよりはいいもんだと思っていた。


──でも。


逢川を見る限り、そうでもないんだと感じる。どっちが良くてどっちが悪いとか、そういう問題じゃねぇんだな。

これほどまでに落ち込んだ逢川の顔は、普段と違いすぎて見たくねぇ。


この環境下の中で今までよく笑っていられたな、こいつ。


「俺は親の顔を知らねぇ」

「…え?」


すでに箸が進んでいなかった弁当を横に放る。


食欲なんてとっくに失せていた。

吸えるもんなら煙草を吸いたかった。


「今いるのは形だけの親。偽物だ」

「な、なにそれ」

「血がつながってねぇんだよ。養子ってやつだ」

「──」


また、自分から親の話を口にしていた。


ただでさえ言いたくねぇ話。ましてや鬱陶しいとまで思っていた存在に、二度も自ら身の上話をするなんて。


俺、マジでどっかおかしくなってんのか?