「俺は女相手に本気で手は出さねぇ。お前みたくうぜぇ奴は別だけど、殴ったりなんかするか」

「じゃ、今のはなんだったの?」

「お前があまりにもうぜぇから…。お前、マジでなんなわけ?」


嫌がらせをされてるとしか思えねぇよ。


「だから深瀬くんが好きなの!そばにいたいの!どうしてわかってくれないの?!恋する乙女心を!」

「…馬っ鹿じゃねぇの」

「馬鹿でもなんでもいいよ。だけど好きでいさせて。そばにいさせてよ」


──どれほど拒絶しても払いのけても、まっすぐに俺を見つめる目。


冷たい視線や言葉をどんなに浴びせても、揺らぐことなく立ち向かってくる。


その曲がらない根性に、とてもじゃないが勝てる気がしなかった。


「…失せろ」


一言だけ告げ、また歩き出す。


こいつにそんなことを言っても無意味だとわかっていながら、その一言しか出てこなかった。


「─ダーリンッ!」


思ったとおり、俺の言葉に効果なんて微塵もない。


それどころかテンションがっつり上がってんじゃねぇか。


こいつ、重度のマゾだったりしたら完全に逆効果だな。


─犬のように俺の後を追いかけてくるこの女を、どうしたら追い払えるのかと考えるだけで、俺は急激に頭が痛くなった。