だって、今まで知らなかった。
母親や、父親や、茜がこんなに自分にとって大切な存在だってこと。
自分のことを愛していないと思っていた母親が、あんなにもわたしのことを思ってくれていたってこと。
父親が、あんなにも家族のことを大切にしているってこと。
完璧で、何でも持っていると思っていた茜が、あんなにもたくさんの悩みを抱えているってこと。
わたしには、ちゃんと自分を見てくれる友達がいるってこと。
自分だけが不幸だなんて思っていたわたしは、とんでもない勘違いをしてしまっていたってこと。
それに気付けたのは全部、シュウのおかげだ。
「シュウ!ありがとう!」
「さっきも聞いたよ!」
制服のスカートが風でバタバタと舞う。流れていく川沿いの景色。見えてくる、白くて四角い箱のような大きな病院の建物。
見覚えのある建物は、祖父が生きていたときに入院していた病院だ。何度もお見舞いに行ったから、わたしもまだ覚えている。
病院の前でバイクを止め、シュウがわたしをおろしてくれる。
「ありがとう、シュウ」
「はやく行きな。おばあちゃんが待ってるんだろ」
「うん、ありがとう」
シュウと今度会えるのはいつだろう。課題が終わるのはまだもう少し先だ。
「はやく行けってば」
シュウが笑う。
「今度、お礼させてね。わたしがケーキ作ってご馳走する」
「楽しみにしてるよ」
シュウがいった。良かった。またシュウに会える。
手を振るシュウに背を向けて、病院の門を通り抜ける。
おばあちゃんの病室は、5階だ。母親からのメールで確認しながらエレベーターのボタンを押した。



