喫茶ブランカのドアを少し乱暴に開けると、いつもは軽やかな金属音が鳴るドアが、急に不快なメロディーを奏でる。お客さんがいたら叱られるかもしれない、と思ったら、店にいたのはトミーさんひとりだけだった。
「どうした、葵」
いつもは「おかえり」と穏やかに言うトミーさんが、わたしの顔を見るなりたずねてくる。
きっと、焦ってドアを開けたことに気付いたのだろう。
「すみません、祖母が、入院したらしくて…」
「わかった。気をつけて帰るんだよ」
わたしが最後まで説明するまでもなく、トミーさんはそう言った。
「…ありがとうございます」
わたしは一度は閉まったドアをもう一度開け、トミーさんに見送られて店を飛び出した。慌てて自転車に飛び乗って、元来た道を走り始めると、すぐにある異変に気が付いた。
「…パンク?…!嘘でしょ?!」
自転車をおりて確かめる。
「…やっぱりパンクしてる…なんで…」
なんでよりによってこんなときに。わたしは思い切り神様を恨んだ。
「どうしよう…」
毎日通る通学路、この近所には自転車屋さんがないことくらいは知っている。
最悪だ。そう思ったときだった。



