今夜、きみを迎えに行く。





喫茶ブランカへ向かう帰り道、いつもの川沿いの並木道。

通学バッグにしまっておいた携帯が鳴っていることに気が付いた。マナーモードにしているから、バッグの中でブーッブーッと振動する携帯。振動し続けているのは着信の証拠だ。こんな時間帯にかけてくるのは一体誰だろう。



自転車を止め、バッグを探ってようやく手に取ると、着信画面には『母ケータイ』の文字。慌てて画面に指をスライドさせて電話に出る。



「もしもし、お母さん?」



『葵?いまどこにいるの?すぐに、帰って来れる?』



焦ったような母親の声。



「バイトに行く途中だよ、どうしたの?」



『おばあちゃんが、家の庭で倒れたの』



「おばあちゃんが?!」



『病院に運ばれて、今すぐ命に関わることではないそうだけど。入院することになったから、葵にも知らせておこうと思って』



「本当に?本当に大丈夫なの?!」



『ええ、でも、今日はお母さん病院にいるから、もう切るわね。葵も後から来てあげて。場所はメールで送っておくから』



「…わかった」



母親は慌てた様子で電話を切った。たぶん父親にも同じ内容の電話をしているんだろう。
わたしは急いで喫茶ブランカへと向かう。
トミーさんに事情を話して、今日は帰らせてもらおうと思った。