彼の横を少し時間をかけて追い越して、茜と並んで学校に着く。学年別の駐輪場に自転車を止めていると、茜がほんの少しだけ頬を赤らめて言った。
「気付いたでしょ、葵」
「うん、気付いた」
わたしは答える。言うまでもない、きっと、さっきのバスケ部の彼のこと。茜の片思いの相手。
わたしは茜を十七年間ずっと見てきた。だから、茜の好きな人を見間違えることなんてきっとない。
「好きな人にはあんな言い方になっちゃうんだよね、あたし」
茜が情けない表情をして言った。茜のこんな顔、見たことないかもしれない。
「あいつも多分、あっちの大学に行くんだ。M大とは違うけど、同じ地区の大学。だから追いかけたいって訳じゃないけど。同じ地区の大学なら、試合とかで会えるかもしれないじゃない?だからM大。葵には、格好いいこと言ったけど、こんな不純な動機もあるんだ」
茜はそう言って笑った。
わたしは茜にこんなにも思われている彼のことが、少しだけ羨ましいと思った。



