学校が近づくにつれて、増えていくわたしたちと同じ制服姿。
歩いて登校する彼らをわたしたちの並んだ自転車が追い越していくたびに、「おはよう」と声を掛けられる。
やっぱりみんな、茜のことを見ているし、茜に向かって挨拶をする。だけど、少し前までと違うのは、わたしにも「おはよう」と言ってくれる友達が増えたこと。
まるで茜の隣で透明人間みたいだった少し前のわたし。
今は、茜に「おはよう」という友達も、わたしにもきちんと視線をくれる。透明じゃない、ちゃんとひとりの人間として見てくれている気がする。
「おはよう、茜、葵」
並んで自転車を走らせるわたしたちに向かって名前を呼んだのは、他の生徒たちより頭ひとつぶん背が高い男子生徒。声を掛けられると、心なしか茜のこぐ自転車のスピードが落ちる。
そしてわたしも、あれ?と気付く。
これは、もしかして。
男子生徒は茜と同じ、真っ赤なバスケットシューズケースを通学バッグと一緒に肩に担いでいる。男子バスケ部だ。
茜は少し間を開けて、彼に向かって「おはよう」と返す。
「来週の試合、俺らも応援に行くから、頑張れよ」
「え、見に来んの?」
「何だよ、嫌そうな顔すんなよ」
「試合中に変なこと言って邪魔すんのだけはやめてよね」
「公式戦でそんなことしねえよ。練習試合じゃあるまいし」
「練習試合でもすんなっての」
二人のやり取りを見て気付く。確かこの人、茜と同じバスケ部のエースだ。たぶん彼も茜と同じ、次期キャプテン。
そして、ピンときた。
茜の好きな人、この人だ。



