今夜、きみを迎えに行く。





「葵、最近、なんかいいことでもあった?」



「え、なんで?」



「なんとなく。最近の葵、なんていうか、なんだかいい感じだからさ」



「…そう、かな?」



川沿いの、いつもの通学路。いつもの景色。
めくれあがるスカートを気にもしない茜。



「うん。なんとなくだけどね。ほら、高校に入ってくらいから、ずっと元気なかったから。心配だったんだー」



茜が笑う。人の心配なんてする余裕、ないくせに。



「いいことは、あったよ」



「やっぱり?!なにまさか彼氏でもできたとか?!」



「そうじゃないけど…好きな人、っていうか、気になる人、かな…」



途切れ途切れに答えると、自分の耳まで赤くなっていくのを冷たい風に吹かれることで実感する。



「えっ、うそ!だれだれ?!どんな人?!」



「うーん…よくわかんない。一つ歳上ってことと名前しか知らないし…、高校とか…行ってるのかな…。それもよくわかんないんだよね…」



シュウのこと、わたしは本当に名前しか知らない。



わかっているのは最近まで入院していたらしいこと、どうやらうちの近所に住んでいるらしいこと、ココアが好きで、年齢よりもかなり色んな経験を積んでいそうな物の言い方をすること。



そういえば、名前だって下の名前しか知らない。