「葵も食べな」
カウンターの中でわざと厚めにカットしてくれたパウンドケーキに生クリームをたっぷりとかけて、トミーさんがわたしにすいっとお皿を差し出してくれる。
「…いただきます」
フォークで生クリームをたっぷりとからめて口に運ぶと、甘くて爽やかな酸味と香りが口いっぱいに広がった。
「わぁ…美味しい」
思わず呟く。
「オレンジの皮を混ぜているから、香りもいいだろ。甘いものは好きじゃないが、お菓子を作るのは好きでね」
トミーさんが笑って言った。甘いものが苦手なのに、お菓子作りが好きだなんて変だなと思うけれど、なんとなくそれがトミーさんらしい感じがする。
「パウンドケーキは、特に好きでね。作り方が簡単だから」
「えっ、これ、簡単なんですか」
おばあさんはゆっくりケーキを味わっている。わたしはあまりの美味しさにすぐに食べ終わってしまう。
「パウンドケーキは、小麦粉、砂糖、バター、卵を同じ量、一ポンドずつ使うってのが、名前の由来だからね。覚えるのも簡単だ。葵にも作れるさ」
「え、そうなんですか…!知らなかった…」
わたしが目を丸くすると、トミーさんは「今度、試しにやってみるといい」と言って笑った。



