今夜、きみを迎えに行く。




おばあさんは、コーヒーカップを片手に目を閉じて、それを聞く。



うっとりするような優しいメロディーに包まれて、トミーさんの指先の動きに魅了されて、コーヒーの香りと一緒にこの贅沢なショーに酔いしれるのは、わたしも同じ。



トミーさんのピアノには華がある。と、前に言っていたのはジローさんだったと思う。
彼らが定期的に行っているらしいライブでも、トミーさんの人気は若い女性からお年寄りまで幅広く、群を抜いているんだとか。



わたしに音楽の良し悪しなんてわかるはずはないけれど、トミーさんのピアノが素敵だということだけは、なんとなくわかる。



オーブンから、何やら香ばしくて甘い香りが漂ってくると、トミーさんはピアノを弾く手を止めた。



「お、そろそろ焼けたかな」



トミーさんは立ち上がり、使い込んだ古いオーブンを開ける。



中から取り出したのは、銀色の長い焼き型からこんもり盛り上がったパウンドケーキ。



「うわぁ…美味しそう…」



ギザギザの包丁で綺麗にカットして、トミーさんが手早く泡立てた生クリームをとろりとかけると、トミーさんお手製のパウンドケーキプレートの出来上がり。



「サービスです。どうぞ」



おばあさんの目の前に、トミーさんがそれを置く。
おばあさんはやっぱり笑わないけれど、黙ってそれを食べ始める。
フォークの使い方や食べ方で、この人はやっぱりお屋敷のお嬢様だったのかな、と想像した。
ひょっとしたら昔、トミーさんの恋人だった人、だったりするのかもしれない。