シュウの課題をしただけで、こんなにも世界が違って見えるなんて本当に不思議だ。
放課後、学校からの帰り道、川沿いのいつもの並木道。
ぼーっとしてたら通り過ぎてしまいそうな路地を曲がって、お屋敷の立ち並ぶ通りを抜けたその先に、小さく見えてくる丸い屋根の小さなお店。喫茶ブランカ。
ドアを開けると頭の上で軽やかな金属音が聞こえてくる。出迎えてくれるのはトミーさん。
「おかえり」とトミーさんは言う。わたしはそれに、いつもなんと返事をすれば良いのか迷ってしまう。
迷った挙げ句、ぺこりとお辞儀をして返す。店のカウンターでは、近くのお屋敷に住んでいるおばあさんが座ってコーヒーを飲んでいた。
おばあさんは、細かい花柄の鮮やかな緑色をしたワンピースを着て、ヒールのあるサンダルを履いている。
紺色の毛糸のカーディガンには同じ毛糸でできた薔薇のコサージュがついていて、ほとんど真っ白に近い長い髪は、やっぱり薔薇の髪止めで綺麗にまとめられている。
わたしは彼女にも、ぺこりとお辞儀をして「いらっしゃいませ」と言った。おばあさんは無表情のまま、小さく頷いたように見えただけであまり反応はない。
この店におばあさんが来ると、トミーさんはピアノを弾く。
ジローさんと弾くようなアップテンポなものじゃなく、もっと優しいメロディーの曲だ。



