今夜、きみを迎えに行く。





「葵のお母さんだけが、うちのお母さんの相談相手だった。葵のお母さんは、最初はずっと離婚に反対だったし、ずっとうちの親を慰めてくれてた。離婚なんかしちゃいけない。子どもを不幸にしちゃだめって。だけど、うちの親の決心は変わらなかった。それで、わたしが十八歳になるまで我慢するって約束したの。葵のお母さんは、それまでにうちの親の気持ちが変わることを期待してくれてたみたい。でも、結果はやっぱり同じだった」




茜はもう、ずっとずっと前から覚悟が出来ていたんだ。



もうすぐ十八歳を迎える茜の横顔は、だれよりも大人びて綺麗に見えた。




「わたし、M大学に行くよ」




茜はいった。風に向かって自転車をこぐ。今日は向かい風で自転車はちっとも進まない。だけど、今日だけはそれでいいと思った。
茜の話を聞きたいと思った。




シュウが言った通り、わたしは茜のことをなにひとつわかっていなかった。




「M大学なら、学費も免除だし、四年間の寮生活。親に負担もかからない。女手ひとつじゃ、大学費用なんて出せっこないもん。M大を出たら、それなりの就職だって出来る。そうしたら、お母さんを養ってあげられるから」




「……茜……」




何も知らなかったのはわたしだけ。うちの親も、茜の気持ちや家庭の状況を知っていた。



大学卒業後のことまで考えている茜と、なにも考えずにただ毎日を過ごしているわたしを見比べて、両親はどう感じていたのだろう。



「なにも知らなくて、ごめん……」



謝ることも、決して正解ではないこともわかっていた。

たとえ知っていたとしても、わたしに出来ることなんてなにもない。