「うん、美味しい。すごく美味しい」
あたたかいココアを一口飲んで、シュウは言った。
「アオイ、なにかいやなことでもあった?」
「…えっ」
「顔にかいてある。わたしの話を聞いてって」
そんなばかな、と思った。
シュウは本当に、わたしの心の中が読めてしまうのだろうか。
だとしたら、わたしがシュウを待ち焦がれていたこともお見通しなのだろうか。
「そんな訳ない」
「そんな訳ある。きのうのアオイと顔が違うよ。学校か家で、なにか辛いことがあったんじゃない」
「ないよ、なにも」
「話したくないなら、話さなくても良いけど。話をするだけで、すっきりするってこともあるよ」
シュウはさらりとそう言って、ココアの二口目を飲んだ。
シュウになら、話してもいいかもしれない。と思った。
全然知らない他人のほうが、こういう悩みは話しやすいのかもしれない。
シュウは茜のことを知らないから、魅力的な茜の味方をするようなこともないはずだ。
わたしは、コルクが抜けたみたいに喋り始める。
幼なじみの茜のこと、両親のこと。
昔は大好きだった家族のこと。
なにも出来ない自分のこと。
取り柄がない自分がいると、家の雰囲気が悪くなってしまうこと。何でも出来る茜のことを、本当の娘であるわたしより、大切にしている両親のこと。



