カップのココアパウダーにあたためたミルクを少し注いだ。チョコレートを練って、滑らかにしたらお砂糖と残りのミルクを注ぐ。
甘いチョコレートの香りが鼻をくすぐった。
「うん、いい匂い」
カップを持ち上げて一口飲もうとしたところで、店の扉がゆっくりと開く。
天使の笑い声、軽やかな金属音。
「いらっしゃいませ」
わたしの予感は見事に当たった。
ドアが開くと優しい微笑みを浮かべたシュウの姿。
いま一番会いたかった人。
「こんにちは。ココア作ってもらえるかな」
「うちはコーヒーが売りですよ」
「チョコレートの、甘い匂いがしてるけど」
「これは、わたしが自分で飲む用です」
「じゃあ、ぼくのぶんもお願いするよ」
シュウは笑った。
わたしはやっぱり意地っ張りだ。もう完璧に準備出来ていたのにあたかも仕方なく、みたいにシュウのぶんのココアをいれる。
ミルクだってしっかり二人ぶんあたためていたからすぐに出来上がり。
「お待たせしました」
「ありがとう。どうしてもこれが飲みたくて」
シュウはきのうと同じ、左から三番目の席に座った。
わたしの立つ場所の斜め前。
シュウの頬には色がなくて、まるで人形みたいにも見える。長く入院していたからなのか、壊れ物の硝子みたいに綺麗なシュウは、笑うと天使みたいに見えた。



