今夜、きみを迎えに行く。





ふ、と途中で曲が止まる。



「ここはもっと、こう」



トミーさんが、さっきまでと同じメロディーを、少し違ったリズムで弾き直す。



「いいね」



と、ジローさんもすぐに同じリズムで曲に加わる。阿吽の呼吸というのはきっとこういうことを言うんだろう。長年の付き合いと勘だけで、お互いのやりたいことが手に取るようにわかるから、こんな風に即興で、こんなに格好良いメロディーが生まれるのだろう。



一曲が終わると、わたしは掌が痺れるくらい拍手をした。
トミーさんたちのライブは、きっとものすごく素敵に違いない。




「ありがとう。若い子に拍手をもらうと嬉しいもんだな」



ジローさんが、恥ずかしそうにそう言ってバイオリンをケースにしまう。ジローさんがお会計を済ませると、トミーさんはカウンターの中を片付ける。



「ちょっと、出掛けてくる。さっきの曲を他のメンバーと合わせて来るよ。葵、店を頼む」



もう当然の流れのように、トミーさんはジローさんと店を出ていく。多分、この近くにトミーさんたち音楽仲間の集まるスタジオのような場所があるんだろう。



「解りました。いってらっしゃい」



「またね、葵ちゃん」



ジローさんが、小さく手を振って、二人は店を後にする。
ふたたび静まり返った店内に、わたしはトミーさんがさっき演奏していた曲のレコードを探してかけた。