今夜、きみを迎えに行く。





トミーさんがいれたコーヒーのいい香りがたちこめている店内には、今日は珍しく歌詞のある曲が流れていた。


どこかで聞いたことのある曲で、古い洋楽だとは思うけれどタイトルまでは解らなかった。



ジローさんはゆっくりとコーヒーを味わいながら、楽譜を片手にトミーさんに語り掛けている。



「今度、ライブでこの曲をやらないか。アレンジはぼくがするから」


ジローさんは楽譜を指差してトミーさんに見せている。


「もう少し、素人にもわかる曲のほうがいいんじゃない」


トミーさんも、カウンターの中でコーヒーを片手に答えている。



「素人向けも良いけど、そっちに片寄るのもな。いつまでも聞く側のレベルが上がらないんじゃないかな。こっちから提案してやって、徐々に客のレベルを上げていってやらないと」


ジローさんは真剣そのものだ。わたしにはよく解らない話だけれど、なんだか二人がすごく格好良く見える。


「ぼくは、初めて来る客にも盛り上がってもらいたいから。あえて歌謡曲を入れるのもありだと思うけど。バランスが大事だろうな」



「なら、歌謡曲から入って、アレンジでそのままこの曲に繋げるのはどうだろう」



ジローさんが、楽譜の真ん中あたりを指差した。


ケースからバイオリンを取り出して、アップテンポなメロディーで、どこかで聞いたことのあるフレーズを弾く。そのまま、ごく自然にクラシックなメロディーへと切り替わっていく。


いつのまにか、トミーさんはグランドピアノに移動していて、ジローさんのバイオリンにピアノの音色が重なった。