「わたし、聞いてない」
「そうだったんだ?なら、葵はまだ知らないことにして!バスケ部だけにしか知らされてないのかもだし。あたしから聞いたって言わないでね」
菜々の言葉に頷きながらも、頭の中はぐるぐる渦巻いている。
茜が、この街からいなくなる?
わたしの隣にずっといた、当たり前の存在の茜がいなくなる?
考えて、想像してみても、まったくといっていいほどピンと来ない。
超難関のM大だ。茜だってスカウトなしでは入学が難しいはずだ。ましてわたしが行けるはずもない。
茜がいなくなればいい、なんて思っていたはずなのに、何故か自分も同じ大学を受験出来るかどうか勝手に頭が考えてしまっているなんて、わたしはどこまで茜に依存しているんだろう。我ながら呆れる。
そのあとの授業は、まったく集中出来ないどころか机の上に違う教科の教科書を出していたり、先生にあてられても気付かなかったりととにかく散々で、昼休憩も何も食べず、気づけば下校時刻になっていた。
下校時刻のチャイムが鳴っても、いつものように茜が声を掛けに来てくれることはなかった。
当然のことなのに、やっぱりわたしは悲しくなった。
頭がぼーっとしたまま自転車をこいで、喫茶ブランカへと向かった。



