今夜、きみを迎えに行く。





自分のクラスに到着して、授業が始まってからも、わたしは空っぽの頭でぼんやり机に突っ伏していた。



先生の声も、たまに話しかけてくるクラスメイトの話もぼんやりとしか耳に入らない。



休み時間、クラスメイトで茜と同じバスケ部の菜々が声を掛けてきた。



「葵?今日元気ないじゃん。どしたの?」



頭にキンキン響く、元気な声。



「別に、なんにもないよ。ちょっと、気分悪いだけ」



わたしが机に突っ伏したまま答えると、
「そっかぁ」と菜々は言った。



「無理しないで、保健室いったら?」



「それはいい。大丈夫」



「あ、そういえばさ」



菜々が思い出したように声を出す。「なに」と少し机から顔を上げると、菜々はわたしの顔を覗き込むようにして言った。



「茜って、M大からスカウトされたんだよね?知ってた?すごいよね、さすが茜って感じ!」



興奮気味の菜々の声が、ぼんやりしていた頭を叩き起こした。



「M大って、あのM大学?」



「M大って他にないじゃん」



「…茜、M大行くの?」



「あれ?葵知らなかった?幼なじみだから知ってると思ってた。M大からスカウト来て、断る人いないでしょ」



菜々はわたしが知らなかったことに驚いた様子で、目を見開いた。



「M大って…」



「さすが茜だよね。あれ、多分特待生枠だよ。学費免除で寮生活で、茜なら即レギュラーかもね。まだ二年なのに、三年生差し置いてそんな話が来てるのなんて茜くらいだよ」



M大と聞いただけで、そのあとはあまり耳に入って来なかった。

女子バスケットボールの超名門大学であり、超難関の有名私立大学でもあるM大学。


わたしたちの住んでいる街からは、新幹線でしか行けない都会の大学で、進学するなら寮生活か下宿が必須。


そんな遠く離れた場所に、茜が進学するなんて、茜の口からは一言も聞いていなかった。