今夜、きみを迎えに行く。





自転車に乗るとき、無意識に隣の家の庭を見ていた。



茜の自転車は、もうない。先に学校に行ったということだ。わたしを置いて。わたしのことを迎えに来ずに、ひとりで。



茜はたくさん友達がいるから、他の友達を誘って一緒に登校しているのかもしれないし、ひょっとしたらバスケ部の朝練にでも行ったのかもしれない。



わたしが昨日、あんなことを言ったから、茜はわたしを迎えに来なかった。

今までずっと、小学校に入った日から、毎日欠かさずわたしを迎えに来てくれた茜が、わたしを置いて行ってしまった。



全部、わたしのせいなのに、そのことにさえ腹が立った。




「…茜のばか」




自転車をこぎながらひとり呟いた。ばかはわたし。茜はなんにも悪くないのに。



茜が隣にいない通学路。



鬱陶しいくらいに綺麗なはずの川沿いの景色も、今日はちっとも綺麗じゃない。



空はくすんだ色をしているように見えるし、澄んだ水が流れているはずの川も淀んで見える。



爽やかなはずの朝の空気は息苦しくて、自転車をこぐペースも上がらない。



ようやく学校に近付いても、すれ違う制服姿の友達は、誰もわたしに「おはよう」と言わない。
それどころか、自転車で隣を通り過ぎるわたしに見向きもしない。



茜が隣にいるときは、まるで花道を通るみたいに通り過ぎる誰もが「おはよう」と声を掛けてきていたのに。