翌朝、いつもの通りの時間に起きて、制服に着替えてリビングへと向かった。
昨日あんなことを言ったから、母親はわたしにさぞかし怒っているだろう。
キッチンに立つ母親の後ろ姿。なんだか、少し痩せたような気がする。
わたしの気配を感じているはずなのに、母親はまだ振り返らない。
「はやく座って、朝ごはん食べちゃいなさい」
後ろ姿のまま、母親がいった。
わたしは言われた通りに席につく。昨日食べそびれたシチューと一緒に、いつもの朝ごはんが並んでいる。
茜のいない食卓、わたしだけのために用意された朝ごはん。もしかして、怒っていないのかな?だとしたら、茜のいない今日くらい、わたしのことを見てくれる?
「おはよう、お母さん」
後ろ姿に向かって言ってみる。やっぱり母親は振り返らない。
「お母さん、わたし…」
「茜はきっともう、来ないわね。葵があんなこと言ったから、当然よね」
今にも泣きそうな声だった。
「お母さん、わたしね、昨日、バイト先でね」
「そんな話、どうでもいいわよ!」
少しだけでもいい、わたしの話を聞いて欲しかった。わたしのことを見て欲しかった。
茜じゃなく、わたしを見て欲しかった。
ようやく振り返った母親は、泣き腫らした眼をしていた。
わたしのことなんて、どうでもいい。
わたしの話を聞けなくなることよりも、このまま茜が来なくなることを悲しんでいる母親を、わたしは黙って睨みつけていた。
怒りと悲しさと、寂しさと、嫉妬。
汚い、惨めな感情だけが自分の中に渦巻いて、どうしようもなかった。
わたしはそのまま立ち上がり、通学バッグを掴んで家を飛び出した。
子どもみたいなのは解っている。悪いのは、全部わたしだ。
こんな自分のままじゃ、いつまでたっても茜に太刀打ち出来るはずなんてないのに。



