「きみみたいな子なら、きっとなんでも出来るだろうと思うけどな」
「そんなことありません。これといって特技もないし、それに、頭だってそんなによくないし」
「特技、あるじゃん」
「え」
彼がいきなりそんなふうに言ったので、わたしは面食らってしまった。わたしの特技?そんなのわたしにもわからない。まして初対面の彼にわかるはずなんてないのに。
「こんなに美味しいココアをいれられる。それに、なんだかきみといると楽しい気分になる」
それに、と彼はいった。
「笑った顔がとても可愛い」
面と向かって、得意気にそう言った彼は、嬉しそうに微笑んでいた。
こんなに綺麗な顔をした男の人に、そんなことを言われたら、わたしはなんと答えたらいいのかわからない。
自分の顔の温度が耳のあたりまで急上昇していくのがわかる。
彼はただ、初対面の高校生をからかっているだけなのかもしれないっていうのに。
「やめてください」
わたしの口から飛び出したのは、やっぱり可愛くない言葉。優しくて素敵な男性を目の前にして、こんなことしか言えない自分に腹が立つ。
もし、茜ならなんと答えるだろう。
誰もが顔を綻ばせるような満面の笑顔で、ありがとう、と言うだろうか。
わたしだって本当は、彼にありがとうと言いたかった。
こんな風に、こんななんでもないことで誰かにほめてもらうのは、なんだかものすごく久しぶりのことのような気がしたから。



