「いえ、わたしのほうこそ、ごめんなさい。長く入院してたなら、いろいろと解らなくて当然ですよね。疑ったりして、本当にごめんなさい」
彼に向かって頭を下げる。
健康そのもの、それだけが取り柄みたいなわたしには、病気で入院していた彼の気持ちなんて到底わかるはずもない。
「いいよ。大丈夫。ぼくのほうこそ、いきなり変なことを聞いてごめん。入院が長かったせいで、会話の仕方がおかしくなっちゃったんだよ。こっちの世界は久しぶりだし、ほら、病院にいる人は、みんな同じような境遇だったから」
彼は微笑みながら言った。色が白くて、瞳が綺麗で、声はすごく澄んでいた。
どこか懐かしい響きのその声は、聞いていてとても心地よかった。トミーさんの声と同じ。
「退院出来て、良かったですね」
「そうだね」
わたしは、心の底から彼が退院できて良かったと思った。
疑ったりして、ごめんなさい。始めの印象通り、やっぱり彼は、多分すごくいい人だ。
「きみは、高校生?」
彼はいった。ゆっくりココアを飲みながら、たまに発する一言がとても優しい。
「はい、二年生です」
「そうか。二年生か。将来の夢はなに」
「将来の夢は、ええと、とくにありません」
「もったいないなぁ。せっかく、健康な身体に産まれたのに」
彼がとても残念そうに言ったので、わたしも少し悲しくなった。
夢がない、やりたいことがない、それってやっぱり、駄目なことなんだろうか。



