「いらっしゃいませ」
その人と、目があって、反射的に二度目のいらっしゃいませを言った。
きっとこの人も、トミーさんの知り合いか、その息子さんかお孫さんか何かなのだろう。
「すみません、今、店長は外出中なんです。よろしければ、電話でお呼びしましょうか。すぐに帰って来ますよ」
いつもと同じように言った。
この店に来る人は、トミーさんに会いに来る人だ。それをトミーさんも知っているから、電話一本でいつもすぐに飛んで帰って来る。
いったいどこにいたのだろう、とびっくりするくらい一瞬で。
「いや、大丈夫だよ」
とその人は言った。珍しい、こんなこともあるのか。
ということは、普通のお客さん、ということになるのだろうか。それとも、遠慮しているだけなのかな。
「電話したら、本当にすぐに帰って来ますよ?いいんですか」
「うん、大丈夫。それより温かいコーヒーを下さい」
彼は、八つあるカウンターの椅子のなかで、わたしから見て左側から三番目の席、わたしの斜め前に腰掛けた。
「コーヒーは、いつも店長がいれるんです。わたしはまだ練習中で」
温かいおしぼりを彼の目の前に置きながらわたしはいった。
この店のこだわりのコーヒーは、一杯ずつトミーさんがドリップするのが決まりだ。
何度も見て、やり方も教えてもらったけれど、お客さんに出させてもらったことはない。
それでも、この店のお客さんはトミーさんが来てからしかコーヒーを頼まないものだから、今まではそれでも大丈夫だった。たぶん、トミーさんも想定外だろう。



