「へえー、オーディションなんてするんですね」
わたしは驚いて言った。
還暦を過ぎたおじいちゃんバンドに入るために、わざわざオーディションがあるなんて。
トミーさんのバンドがそれだけ、魅力的だってことなんだろうか。
「ビックバンドに入ってやってみたいって奴は、意外と多いもんなんだよ。そのかわり実力差が凄いからね。オーディションをしてからじゃなきゃ、メンバーには入れてやれないって訳さ」
「…へえー…知らなかった…」
いつも店で、トミーさんやジローさんたちの音合わせや即興のセッションを聞いているわたしも、全員揃って演奏しているところは一度も見たことがない。
ビックバンドってのは、それほど凄いものなんだな、と想像を巡らせる。
店のドアノブがかちゃりと動く音が聞こえた。同時に、優しい金属音がカランコロンとメロディを奏でる。
「いらっしゃいま…」
そう言いかけて、わたしは声を失った。
「…嘘…」
思わずぽろりと出た言葉。
だって、そんなこと、あるはずない。
けれど、ドアを開けて入ってきたその人は、間違いなくシュウ、おじいちゃんの若い頃とそっくりで。
「紹介するよ」
とトミーさんは言った。
「新しいギターの、榎本竜二だ。リュウジは二十歳だから、葵の二つ歳上だな」
リュウジ、と呼ばれた彼が、ぺこり、と頭を下げる。
一瞬、シュウと瓜二つに見えたけれど、よく見ると、彼は髪をかなり明るく染めているし、服装だってお上品なシュウとは似ても似つかない。
破れたデニムに、襟が大きくあいたVネックの白いシャツをだらりと着て、首にはなんだかいかついネックレス。
優しい笑顔のシュウとはまるで違う、愛想のない怖い顔でこっちを見ている。



