「おう、おはよう茜」
キャプテンが茜に声を掛ける。ただでさえ目立つ彼が茜に声を掛けると余計に周りの注目を集めてしまう。
特に朝のこの時間帯、この道を歩いているのはうちの学校の生徒ばかりだ。
茜が自転車の速度を緩める。
「…おはよう」
ぎこちないふたりの挨拶に、ちょっぴり笑ってしまう。こんなにもお似合いで、格好いい二人なのに。
「あ、のさ、茜」
「…何?」
「今日、部活終わったら、うちの家、来てくんない?」
「…えっ?」
「母親がさ、どうしても、茜に会ってみたいってうるさくてさ…。嫌なら断っとくけど」
かなり照れた様子で頬を赤らめるキャプテンと、赤面したまま硬直している茜。
しばらく無言が続いたあと、茜が消え入りそうな小さな声で言った。
「…嫌じゃない…よ。嫌なわけないじゃん」
茜の返事を聞いた途端、ぱあっと表情が明るくなるキャプテン。
「良かった!じゃあまた、部活終わったら迎えに行くから!」
そう言い残して、キャプテンはカモシカみたいに長い脚で、あっという間に駆けていく。
茜は硬直したまま、自転車をなんとか漕いでいる状態だ。
長い付き合いだけれど、こんな茜の姿は見たことがない。恋のパワーはすごいんだなと関心してしまうのと同時に、完璧な茜の人間らしさが垣間見られるような感じもして、悪くないなとわたしは思ってもいるのだけれど。



