今夜、きみを迎えに行く。





朝食を食べ終わるとわたしはみんなの食べた食器を洗い、そのあいだ、茜はテーブルを拭いたり、お母さんがわたしたち二人のために握ったおにぎりを持っていく準備をしたりする。



茜の両親は、茜の卒業と同時に離婚することが正式に決定し、半年ほど前から茜は我が家で朝食と夕食を食べるようになった。
すっかり心を病んでしまった茜の母親のために、わたしの母親が自ら提案したことだ。



朝食の後片付けが終わると、わたしと茜は揃って家を出る。茜と並んで自転車をこぐ通学路とも、あと少しでお別れだと思うとほんの少し寂しい気持ちになる。




「ねぇ、葵!」



川沿いの道、いつもの並木道。四季折々の表情を見せてくれるこの道に、桜の花が咲く頃になったら、わたしたちはお別れだ。もう二度と、一緒に通学することはない。



茜に呼び掛けられて隣に並ぶ。相変わらずの向かい風。風に煽られて、スカートも前髪もわっとめくれあがる。白くて長い脚、完璧な横顔がそこにある。



「大学に入ったらさ、試合、見に来てよね!絶対に、レギュラーとってみせるから」



茜は言った。前を向いたまま。それはまるで、決意表明みたいに聞こえる。



「わたし、見てほしいんだ、葵に」



わたしは頷く。もちろん行くに決まってる。どんなに遠くだって、新幹線に乗って見に行く。
茜の勇姿が見られるなら、どこへだって飛んでいく。