シュウ。



わたしは、シュウの名字も、住んでいる場所も、学校に通っているのかどうかということも、シュウがどこの誰なのか、まったく何も知らなかった。



ただ知っていたことといえば、シュウは長く入院していて、それに…



はっと気付く。わたし、シュウに自分の名前を名乗っただろうか?



いつのまにか、シュウはわたしのことをアオイと呼んでいた。



どうして気が付かなかったんだろう。



おじいちゃんの名前は、桐野秀治で、だから…シュウ?



シュウ。



大切なひとを迎えに行くと言っていた。



あの日の夜、シュウが迎えに行った、世界でいちばん大切なひと。



あの日の夜、幸せそうな顔で天国へ行ったおばあちゃん。



シュウが最後に言っていた、「心配事が片付いた」という言葉の意味は…?



シュウは、



おじいちゃんは、わたしのことを心配してくれていた…?



「おじいちゃん…」



懐かしい香りに包まれながら、わたしはいつまでも、懐中時計と写真を抱き締めていた。