引き出しの中に入っていたのは、くすんだ金色をした懐中時計だった。
どき、と胸の奥が痛い。
これは、だって、そんなはずない。
長い鎖を持って取り出した。掌に乗せるとまだ動いているそれは、やっぱり見たことのある形。
同時に、部屋にたちこめる懐かしい香りの正体に気付く。お線香の香り、ラベンダーの優しい香り。
これは、シュウに抱き締められたときの香りだ。
掌に乗った金色の懐中時計は、シュウがポケットから取り出して、いつも時間を見ていたものと同じ。
腕時計や携帯電話じゃなく、古い懐中時計で時間を見るシュウの行動があまりに不思議だったから、忘れたくても忘れられない。
この時計がどうしてここにあるのか。考えても結論なんて出なかった。
「お母さん…あのさ…この時計って…」
おそるおそる聞いてみる。母親は懐かしそうに、「ああ、これね」と懐中時計を手に取った。
「葵は覚えてないかしら。おじいちゃんの形見なんだけど。おばあちゃん、こんなところにしまってたのね」
母親は笑って言った。
わたしは訳がわからなくなる。
シュウの香り。シュウの懐中時計。おじいちゃんの形見。



