今夜、きみを迎えに行く。





「…葵?ちょっと、こんなところで寝たら風邪ひくわよ…葵!」



母親の声で目が覚める。はっとして目を開けると、母親が仏壇に向かって座っているところだった。



「毛布もかけないでこんな畳の上で寝るなんて、子どもじゃないんだから」



母親が呆れた顔で言って、仏壇のお線香に火をつける。



ふわっと部屋にたちこめる、懐かしい香り。
祖母が認知症になってから、仏壇のそばに線香やライターやろうそくを置くことをやめていたから、久し振りに嗅いだ、線香の匂い。懐かしい、落ち着く香り。

だけど、それだけじゃない気がする。



「この匂い…どっかで…」



畳に寝転んでいた身体を起こす。部屋では祖母の遺品を整理している最中で、畳の上に引き出しや段ボールが重なりあっている。

ちょうど、身体を起こした目線の先に、祖母が大切にしていた小さな引き出しが置かれている。



わたしはそれに、無意識で手を伸ばす。
着物のような柄の布地が張られた、高さ30センチ前後ほどの小さな三段の引き出し。



「お母さん、これ、開けてみていい?」



「いいけど、急にどうしたのよ」



母親が不思議そうにわたしを見る。祖母があんなにも大切にしていたのだから、よほど大切なものが入っているのだろう。引き出しの一番上に指をかけて引いてみる。
なぜか、どきんと胸が鳴る。