今夜、きみを迎えに行く。




「早起きは、正直、最初は辛かったよ。だけど、早く起きると良いこともたくさんあった」



わたしはゆっくりと喋り始める。「うん、うん」とシュウは頷いて聞いている。



「お母さんや、お父さんの、知らなかった姿が見られたり、綺麗な景色が見られたり、美味しい空気を吸えたり、それに、早起きするとすごくお腹が空いたの。朝ごはんをたくさん食べたら、お母さんもなんだか嬉しそうだった」



「そう、そうだね」シュウは頷く。やっぱりその表情は、学校の先生かピアノの先生に似ている。下手くそな演奏を、優しい顔で見守っているみたいに。



「庭の掃除は、すごく大変だったんだよ。草がもうぼうぼうで、まずは草抜きから始めないとなんにも出来ないくらいだった。だけど、庭の掃除をわたしがするとね、おばあちゃんがすごく喜んでくれたの。窓からわたしを見て、嬉しそうに笑ってた。わたし、それを見てなんだか幸せだなって思った」



シュウが頷く。わたしはやっぱり、シュウが頷くと嬉しくなる。シュウの笑顔は、なんでも話せる不思議な魔法だ。



「食べた食器を洗うのも、初めてだったんだよ。水が飛び散ったり泡だらけになって大変だった。でも、お母さんと並んで台所に立つとね、お母さんがいつもよりたくさん話してくれたの。わたしの知らなかった話」



茜のこと、茜のお母さんとのこと。母親はなぜか、隣で洗い物をしているとき、普段はしないような大事な話をしてくれた。

シュウは「うん、そうか、それで?」と続きを促した。優しい声。ふわふわの毛布みたいな、包み込むようなシュウの声はなんでも受け止めてくれる。