智樹…。
声が聴きたい。

見ないふりしてきたけど。
さみしい。



部屋について、とりあえず明かりをつけて。
コートも着たままあたしは、そのままの勢いで智樹に電話を架けた。
数回のコールのあと、ざわついた音がした。


「どうした?」

「智樹…」

「悪い。飲み会やってるからうるさいだろ」


少し陽気な声。
智樹は話ながら場所を変えたのだろう、ざわつきが少し静かになった。


「クリスマス会やってたんでしょ。鳴海さんに聞いた」

「そっちもだろ」

「うん。プレゼント交換とかしたんだ」


こんなこと話したかったわけじゃない。
ただ、一言なのに。
言葉が出てこない。
少しの沈黙のあと、智樹が不思議そうに訊ねる。


「…葉月、何かあった?」

「ううん、声が聴きたかっただけ」


ごまかしたつもりだったが、智樹には通じなかった。
少し強めに名前を呼ばれた。


「葉月」

「…鳴海さんに、オレならそばにいるよって言われた」

「うん」

「ぐらついた」


寄りかかりたくなった。
離れても平気だって思ってた。
半年なんてあっという間だって。
でも、ぐらついた。


「で、オレにどうしてほしい?」


あたしは、智樹に……。


「鳴海に電話すればいい?」

「…ううん」


鳴海さんのことを言いたかったわけじゃない。
あたしはただ、声を聴きたかっただけ。


「葉月。何か言って」


智樹がやさしく言うけど、あたしはそのあとの言葉が出てこない。
電話の向こうで智樹が呼ばれてる声が聞こえた。


「…ごめん。何でもない。鳴海さんのこともウソ」

「待て、葉月」

「じゃあ、また電話するね。邪魔してごめん」


あたしは早口で捲し立てて電話を切った。
スマホをサイレントモードにして、リビングのソファに投げる。

ため息をついて、エアコンのスイッチをいれた。
コートを脱いでクローゼットにしまう。



さみしいとか。
会いたいとか。
そんなこと、言ったら智樹は帰ってきてくれたかもしれない。
でも言えなかった。

あたしは、智樹に何かしてほしいわけじゃなくて。
同じ気持ちだって聴きたかっただけ。