シャルがどの程度結婚に熱心なのかは分からない。けれど、シャルなりに一生懸命あいなを説得しようとしていたことが分かった。
まだ、シャルとの結婚に納得はしていないものの、彼のことを少しは優しい目で見てもいいかもしれないと、あいなは心持ちを改めた。
「……じゃあ、モテるって言ってたのもウソ?」
「それはホントだ!色んな国の姫と交流しなきゃならないからな、告白されることも数え切れないほどあった。でも」
シャルは、再びじっとあいなを見つめる。
「心から好きだと思ったのは、お前が初めてなんだ。あいな」
「……シャル……」
時が止まったと錯覚してしまうほど長い間、二人はそうして見つめ合っていたのだった。
「お前、最近明るくなったよな」
「そうでしょうか?シャル様の方こそ、近頃楽しげなご様子ではありませんか」
「……ふん。相変わらず腹の立つかわし方だ」
「おお、それは失礼しました」
言うほど腹を立てているわけではないらしく、シャルは真顔で国の情報書類を眺めた。これは、この後仕事で必要な資料である。さきほどルイスが持ってきたのだ。
物音ひとつ立たない静かな執務室。二人はお互いの腹の中を探りあうかのようにどちらかともなく視線を交わす。
シャルがエトリアの泉であいなと会話した、数時間後のことであった。

