特技の空手をこの場で生かせないのをもどかしく思いつつ、あいなは素直にシャルの案内を受けることにした。
城の中を、シャルに手を引かれ歩く。手を出せない代わりに、あいなは休むことなく口を出した。
「初手つなぎがシャルとだなんて、ツイてない、ホント。どうせなら、大好きな人とこうしたかった」
シャルもシャルで、負けじと言い返す。
「俺とこうしたがる女は山ほどいる。お前はそのありがたみが分からないのか?バカな女だ」
「その女の人達も、シャルがこういう人って知ったらドン引きでしょうけどね」
「『ドン引き』って何だ?」
日本の言葉が分からないようである。あいなは、皮肉をこめてわざとらしく丁寧に説明してみせた。
「人の言動で場の空気が悪くなることを表現した言葉です」
「俺をもてはやす女達も、この性格を知ったらシラケると言いたいのか?」
「そうです。モテるってシャルの勘違いなんじゃない?信じられないし、私は」
「ヤキモチか?」
「誰が焼くかっ!理由がない」
売り言葉に買い言葉。窓から見える庭園の美しい緑も、心を洗われるような調度品も、二人の目には入っていない。互いに、負けず嫌いな性格なのだ。

