「ここ……」
「どうした?珍しくしおらしい顔をして」
「ううん、何でもないです。っていうか、『珍しく』は余計!」
突っ込みを入れつつ、あいなは内心、動揺していた。そんな自分を落ち着けるべく、静かに深呼吸をする。
(勘違いだ、きっと。)
夢で見た景色に似ているのか、それとも、ずっと昔、幼い頃に見たことがあるのか……。あいなは、この場所を知っているような気に、一瞬囚われていた。
(ま、デジャブなんてよくあることだよね。最近、一気に色んなことがあったから、頭がついていかないだけかも。)
持ち前の深く考えない前向きな性分が生きて、あいなはケロリとその既視感を忘れてしまった。そこに連なる違和感すらも……。
「それより、手!いつまでつないでる気?」
シャルの手でしっかり握りしめられた自分の手のひらを、あいなはうらめしそうに見る。好きでもない相手にこんなことをされたって、トキメキも何もない。
「ありがたく思え。城の中を案内してやる。どーせヒマだろ?こっちは仕事が片付いたからな」
「ありがた迷惑です!一人で散策させてよ!アンタと一緒にいても楽しくないっ」
「口の減らない女だ。黙ってないとその口をふさぐぞ」
「セクハラ王子め……。くぅ」
弱々しくそう返すのが精一杯である。下手にさからって本当にファーストキスを奪われたらたまったものではない。

