「夫婦の仲が深まれば深まるほどエトリアの魔力も強くなるという言い伝えだがな。本当のところは知らない」
「そんなんでよく、指輪をはめる気になりましたね。私には理解できません」
「お前の夫になりたかったからな」
一切迷いのない声音。まっすぐにあいなを見つめるシャルの瞳。鮮やかなエメラルドグリーンの瞳に、あいなは吸い込まれそうになった。
「いいよ。今は嫌いでも。これからじっくり惚れさせてやるから」
真面目な表情は一変、これまであいなに見せてきた意地悪な顔つきに戻り、シャルはあいなの手を取った。
「ちょ、放せっ!だいたい、恋愛もしてないのに結婚とか無理です!私は恋愛結婚するって昔から決めてるんだからっ。恋には順序ってものがっ……!」
「あきらめの悪いやつだな」
シャルはため息をつきつつもあいなの抵抗にはびくともせず、涼しい顔で彼女を部屋の外へ連れ出した。
「すごい……!」
思わず感嘆してしまう。
広々としたロビー。曇りなく磨かれた天窓からもれる太陽の光。優しい色をし、それでいて品のある絨毯(じゅうたん)。
初めて見るはずの光景に、あいなは既視感を覚えた。

