「ルイスさんは執事だよ!それはアンタが一番よく分かってんじゃないの?そんな人に惚れるとか、あり得ないし!」
自慢の空手技を繰り出すことも出来ず、あいなは何とかそう言い返した。心臓はすでに爆発しそうだったが。
「そうか……」
意外にもあっさりあいなの言葉を信じたシャルは、彼女を解放した。
ようやく自由になった身をシャルから遠ざけ、あいなは彼を問いただす。
「すごい力!どうして、アンタには私の力が効かないの!?」
(これでも、空手有段者なのに!!)
不覚にも、シャルの接近に胸が高鳴り、あいなはドキドキしてしまった。このドキドキ感は、空手の通じない相手に出会(でくわ)したという異常事態に直面したせいだ、と、思いたい。
とにかく、あいなはそれを隠すため、険しい形相でシャルを睨み付けた。
なぜ、シャルに対して、自分の本領を発揮できないのだろうか。普通の男性より力強い自信があるから、なおさら疑問である。
「エトリアの力だ」
あいなの疑問に対し一言そう答えると、シャルは自分の左手をあいなの前にさらした。その動きすら優美に見えるのは、王子の品性が関係しているらしい。
「それ…!」
あいなは、反射的に自分の右手薬指を見た。シルバーベースの指輪。透明の青い石。
シャルの左手薬指にも、全く同じデザインの指輪がはめられている。

