「何度も言ってますけど、入る時はノックをして下さい!」
心の中と現実のギャップが大きすぎて、あいなは恥ずかしくなった。動揺を隠すべく、シャルに対して八つ当たり気味な物言いになる。
シャルは、あいな以上にトゲトゲした口調で、壁にもたれた。
「ノックはした。お前、妄想癖でもあるのか?内線切ってからニヤニヤしっぱなしだったぞ」
「そっ、そんなとこから見てたんならどっかで止めて下さいよ!っていうか妄想癖なんてありません!」
「ふーん。どうだか。やけに楽しそうだな。内線で誰としゃべってたんだよ」
「ルイスさんです。ていうか、私が誰と話そうが、シャルには関係ないでしょ?」
ルイスに対する時とはうってかわって、つっぱねるようなことしか言えない。
そんなあいなを不快に思ったシャルは、彼女の両腕を強くつかむと、あろうことか彼女の体を壁に押し付けた。互いの顔がわずか数センチの距離に迫り、息づかいを感じるほど近づいた。
「ばっ、ちょ!放してよっ!」
男性とこんな至近距離で会話をするのは初めてのこと。異性との接近に免疫のないあいなが赤面してしまうのも無理はない。
そんなことは一切気にしていないのか、シャルは容赦なく鋭い瞳で彼女を見つめた。
「言えよ。お前、俺よりルイスの方が好みなのか?」
シャルが低い声でそうささやくと、その吐息があいなの頬をなでる。逃げようにも、あいなの両腕の自由は奪われているのでどうしようもない。

