王子、月が綺麗ですね

紅蓮は俺の足に触れ「葵くん」と舌打ちをした。

「関節が腫れている。何で言わないのかな」

険しい顔が俺の足を見つめ、大きな手が念入りに揉みほぐした。

湿布薬を貼り付け、さらにテーピングし「こんなになる前に言うこと」と眉を上げた。

「わかった」

紅蓮は俺が小声で答えると「ぶっつけ本番で演奏できるほど、俺は弾けないですよ」と言いながら、俺のヴァイオリンケースを差し出した。

「凛音、あの曲なら弾けるな」

「あの曲──はい」

凛音の返事を待ち「出ようか」と立ち上がった。

紅蓮は何も言わず俺の荷物を持ち上げ、肩にかけた。

役所の玄関まで出ると、叔母上と祥が戻ってくるのが見えた。

噴水広場まで移動し、昼ご飯を広げた。

焼きそば、たこ焼き、おにぎり、焼き鳥、蒸しパン、おやき饅頭などなど、誰がそんなに食べるんだ? と思わず言いたくなったが、グッと言葉を飲み込んだ。