王子、月が綺麗ですね

オレンジジュースをコップに注ぎ分けながら、記憶を手繰り寄せるように話す。

「噂だけどね。温泉が勾玉を呼び寄せ、結界が解けて温泉入り口にかかった霧が晴れるそうだ」

「面妖な──」

凛音が俺の呟きを掻き消すように「オレンジジュース美味しそう」と、はしゃいで見せた。

「朝摘みオレンジだからね」

女の横で棚に果物を並べていた若い男が、サッと木箱を店先に置き、座われと促した。

あまりに自然な行動に戸惑い、急いで「ありがとう」と笑顔を作った。

温泉の有力情報を早々に得た俺たちは、他にも情報がないか、市場内の買い物客にも訊ねて回った。

土地名もわからない情報や、うろ覚えで当てになりそうもない情報などもあり、改めて調べなければならないことを実感させられた。

「役所に行って調べてみるかい。地図もあるだろうし道順も載っているはずだ」