「王子、お薬はちゃんと飲まれましたか」

「ああ。凛音、聞いていたか? 敬称、敬語は無しだ」

「でも……」

「──お前と俺は歳も同じだ。葵、葵と呼べ」

言ってみて気恥ずかしくて、凛音の顔をまともに見ることができない。

先を歩く紅蓮に追いつこうと、急ぐ。

昨晩は風呂上がりに、紅蓮に足のマッサージをしてもらいながら、湯治場の話を聞いた。

南の都には温泉、冷泉が幾つもあり、リュウマチ、運動麻痺、関節痛、筋肉痛などに効く温泉が 多いらしい。

「何処にどんな温泉がある?」と聞くと、笑ってごまかした。

「それを訊ねながら旅をしていくんですよ」と。

思い返して溜め息が出る。

肩から背負ったリュックとヴァイオリンケースが松葉杖を操るには邪魔で、何度も立ち止まる。

「歩きにくそうだな」

紅蓮は言うと、俺の肩からヴァイオリンケースを外し、肩にサッと担いだ。